付け根が壊れ易い作りになっているのは何故…。
かばんでよく壊れる部分はやはり付け根かと思います。
かばんの構造として、袋状の部分に荷物を入れ、それを持ち手で引っ張り上げるという
構造になりますので、必然的にその接点に加重が掛かります。
加重が加わるその接点にはそれなりの補強がなされていなければなりません。
革が二重になっていたり、芯材で補強されていたりとあります。
補強の方法は、その鞄の大きさ(荷物の量)や使われ方などにより
使用する素材の選択肢は様々です。
今回の修理品は、FENDIのミニショルダーバック。
一見、壊れていなさそうですが、持ち手のストラップを外してみますと
付け根部分が裂け始めています。
今回使用されている芯材の素材は、紙を粉末にして接着剤と混ぜ、
圧縮したパルプ系の芯材になります。
この芯材が使われている場合は、ほとんどがこのように壊れてしまいます。
鞄製造業界では、なぜこの壊れ易い芯材を好んで用いているんでしょうか…?
今回の場合はまだいいほうですが、殆ど紙の芯材でできている
付け根もあったり致します。分解してみますと表面の革は0.5mm程度で
そのほかの厚みは全部が紙の芯材…なんて云う場合も。
(ただその場合も、本体はちゃんとした厚みの革が使用されているのですが)
紙ですので、湿気でふやけたりしますし、経年劣化により素材自体も
もろくなってゆきます。また、付け根部分というのは
肩掛けで使用しますと、持った際に背中側に位置する持ち手の付け根というのは、
ねじられるような力が加わりますので、耐久性に乏しい芯材が、
その厚みの大部分を担っておりますと必然的に千切れてしまいます。
補修方法ですが、これは鞄の仕様やデザインにより様々です。
付け根部分がパーツで分かれている場合は、そのパーツを交換してしまえばいいですし、
今回のように、鞄と一体化されている場合は、裂けている箇所を
継いで治す方法になります。
補修の際には、基本的に元の状態より耐久性が向上するような
素材や方法で補修を行っております。もちろんオリジナルのような劣化し易い素材は
用いておりませんのでご安心下さい。
今回の補修方法は、付け根部分を本体から切り離し、
その部分で新たに製作した付け根革パーツを接合する方法となります。
接合するにあたって、同じ距離で付け根パーツを切断してみましたが
もともとの製作段階に置いて、誤差がそこそこでておりましたので、
富士山型の縫い目を観てみますと、それぞれの付け根で縫い目が異なっておりました。
今回は、見える部分ではないのでいいのですが、目立つ部分でこのように
オリジナルが狂っていますと、修繕する時に困る場合があります。
金具とベルトループは問題ありませんので再利用致します。
付け根部分のパーツには十分な厚みに革を用い、芯材には伸び止めと裂け予防の
二種類の芯材を間に挟み込んで製作致します。
その際に、今回は本体部分でばっさりと切断しておりますので
接合面に段差が生じております。通常は繋ぎ合わせる方法の場合は、
それぞれ互い違いにお互いを斜めに漉き加工を行い、段差が生じないように
するのですが、今回は本体と一体化されておりますので、加工が行えません。
ですので、新たに制作した付け根のパーツには、接合面の段差を同じにし、
尚かつ、接合面を覆うような加工を施しております。
ベルトを固定してしまえば、接合面は隠れてしまうのですが、
一応、それでも見栄えをよく補修した方が気分がいいですので。
付け根パーツを繋ぎ合わせ、あとは元の縫製通りにステッチを
掛けましたら完成となります。ベルトを美錠に掛けてしまえば
補修部位は隠れて見えなくなってしまいますので、
もっと簡単な方法でも良かったのですが、補修箇所というのは心理的にやはり
気になる部位ですので、なるべく分からないような方法で行っております。